最近、神田元気がない。どーしたんだろう。
 今日の夕飯の時、「部屋に来い。」と言われて、久しぶりに真っ赤になった。
 誘ってくれた時も、なんとなく、目線は下を向いていて、なんだかちょっと辛そうな顔をしていた。

――何かあったのかな。

 ちょっと心配だった。
 そう思いつつ、少しドキドキしながら、僕は神田の部屋のドアノブに手をかけた。

「アレンくん?」

 後ろから声がして、びっくりして飛び上がった。
 振り向くと、リナリーがいた。

「り、リナリー?」
「神田に用事?」
「う、うん。そんな感じ‥」
「そっか。」

 リナリーはそう言うと、ちょっと考えるような顔になった。
 そして思い付いたように目を開くと、スカートのポケットに手を入れて、キャンディーを1個取り出した。

「これ、あげる。」
「え?」

 緑色のキャンディーを僕に差し出すと、リナリーはにっこり微笑んだ。

「アレンくん、何だか思い悩んだ顔してたから。プレゼント。」
「え‥。」

 僕、そん顔してたんだ。

「それだけ。じゃあね。おやすみ。」
「あ‥、ありがとうございます!」

 後ろを向いて歩き出したリナリーに向かって、あわててお礼を言うと、リナリーは振り向いて、もう一度微笑んだ。
 リナリーが廊下の突き当たりの角の向こうに見えなくなると、僕は掌の中のキャンディーを見つめた。爽やかな、新緑色のキャンディーだった。微かに、いつも神田が飲んでいる「お茶」という飲み物の香りがした。
 キャンディーをズボンのポケットに仕舞うと、神田部屋のドアと向き合った。リナリーの励まし(?)もあってか、ドキドキは少しおさまったケド、まだ手が震えている。
 ドアノブを回した。

『ギイィ‥』

 ゆっくりドアを開くと、神田がベッドに寝転がって小説を読んでいるのが目に入った。多分暇潰しにラビから借りたものだろう。

「神田‥。」

 名前を呼ぶと、神田はすぐ気付いて起き上がった。見る限り、やっぱり元気がなさそうだ。

「入れ。」

 低いバリトンの声が部屋に軽く響いた。
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